カットボールの投げ方完全ガイド:握り方・リリース・配球術をNPB投手から学ぶ
Last updated: 2026年3月01日
カットボール(カッター)は、NPBで最も効果的な球種の一つだ。ストレートに近いスピードで打者の手元で鋭く変化するこの球は、右打者の内角を攻めるにも、左打者のバットの芯を外すにも最高の武器になる。山本由伸、ダルビッシュ有、千賀滉大――日本を代表する投手たちが、このカットボールを試合の中核に据えている。
私はこれまで10年以上にわたって野球の技術指導に携わり、NPBの投手たちのピッチングデータを分析してきた。この記事では、カットボールの基本的な握り方から、試合で使える実践的なコマンド術、そして上級者向けの応用テクニックまで、段階的に解説していく。初めてカットボールに挑戦する中学生から、精度を上げたい社会人野球の投手まで、すべてのレベルの選手に役立つ内容をまとめた。
カットボールとは?ストレートとの違いを理解する
カットボールは、フォーシームストレートの軌道から打者の手元でわずかに横にスライドする球種だ。一般的にストレートより5〜8km/h程度遅く、横方向に5〜15cmの変化量を持つ。MLB/NPBのデータ分析では、カットボールの平均球速は約140〜148km/h、回転数は2200〜2600rpmとされている。
ストレートとの最大の違いは、回転軸の傾きにある。フォーシームストレートが純粋なバックスピンで浮き上がるような軌道を描くのに対し、カットボールはわずかにジャイロ方向に傾いた回転軸を持ち、これが横方向の変化を生み出す。スライダーほど大きく曲がらないが、スピードがストレートに近いため、打者はストレートだと判断してスイングを開始した後に変化に気づく。これが空振りやバットの芯を外す凡打を量産する理由だ。
NPBにおけるカットボールの重要性は年々増している。TrackManやHawkeyeのトラッキングシステムの普及により、投球の変化量や回転効率が精密に測定できるようになった結果、カットボールの有効性が数値で証明されるようになった。2025年シーズンのNPBデータでは、カットボールの被打率は.220前後と、ストレートの.260前後やチェンジアップの.240前後と比べて低い水準を維持している。
カットボールを投げるために必要な道具と準備
カットボールの練習を始める前に、以下の道具と環境を整えよう。
必須の道具:
- 硬式球または軟式球:硬式球の方が縫い目の感触がはっきりしており、カットボールの習得に適している。軟式球(M号球)でも基本的な握りと感覚は練習できる
- グローブ:投手用グローブを推奨。ミズノプロ硬式グローブのような品質の良いものがあれば理想的だ
- キャッチャーミット:練習相手がいる場合、キャッチャーミットは必須。変化球のキャッチングに慣れたパートナーが望ましい
- ネット投げ込み用ネット:一人で練習する場合のピッチングネット
- 鏡またはスマートフォン:フォームチェック用。動画撮影で自分のリリースポイントを確認する
あると便利な道具:
- 回転数測定器(Rapsodo、Pocket Radar Smart Coachなど):回転軸と回転数を客観的に把握できる
- レジスタンスバンド:肩のウォームアップとインナーマッスル強化に使用
- ウエイトボール(プライオボール):リリース感覚を養うためのドリルに使用。100g〜300g程度のものが適切
- マーカーコーン:的を設定してコマンド練習に使用
準備運動:カットボールの練習前には、必ず15〜20分のウォームアップを行う。肩周りのバンドエクササイズ、軽いキャッチボール、そしてフォーシームでの投げ込みを経てからカットボールに移行する。いきなりカットボールを投げ始めると、手首や前腕に不自然な力が入りやすく、故障のリスクが高まる。
カットボールの握り方:基本グリップを完全解説
カットボールの握りは、フォーシームストレートの握りを少しだけ修正したものだ。ここが最も重要なポイントであり、握り方一つで変化量とコントロールが大きく変わる。
ステップ1:フォーシームの握りから始める
まず、通常のフォーシームストレートの握りを確認する。人差し指と中指を縫い目の最も幅の広い部分に沿って、平行に置く。親指はボールの下側、薬指と小指はボールの側面を軽く支える。
ステップ2:指をわずかにオフセンターにずらす
フォーシームの握りから、人差し指と中指をボールの外側(右投げなら右側)に5〜10mm程度ずらす。このわずかなオフセットが、リリース時にボールに横方向の回転を加える鍵となる。中指の外側が縫い目にかかるように調整するのがポイントだ。
ステップ3:中指に力の重心を置く
リリース時に中指でボールを切るように押し出す感覚を意識する。人差し指はガイドの役割で、中指がカットボールの変化を生み出す主役だ。指の圧力配分は、中指60%、人差し指40%が目安となる。
ステップ4:親指の位置を調整する
親指はボールの真下よりもわずかに内側(右投げなら左側)に置く。これにより、リリース時のボールの安定性が増し、一貫した変化を生み出しやすくなる。親指の圧力は軽めに保ち、上の二本の指でボールをコントロールする意識を持つ。
ステップ5:グリップの強さを確認する
カットボールの握りは、ストレートと同程度か、やや強めに握る。握りが弱すぎるとリリース時にボールが抜け、変化が安定しない。ただし、握り過ぎると手首の柔軟性が失われ、腕全体のスムーズな振りが阻害される。「卵を割らない程度に、しかし落とさない程度の強さ」というのが古くからの表現だが、感覚としては握力の70%程度が適切だ。
カットボールの投げ方:メカニクスとリリース
握りを覚えたら、次は実際の投球動作だ。カットボールで最も重要なのは、ストレートと同じ腕の振りを維持することだ。腕の振りを変えると打者に球種がバレてしまい、カットボール最大の武器である「ストレートに見える」というアドバンテージが失われる。
ワインドアップからセットポジションまで
通常のストレートと全く同じフォームで投球動作に入る。セットポジションからの投球でも同様だ。ストレッチからの投球時にも、腕の振りやテンポを変えないことが重要だ。
アームアクションとリリースポイント
腕を振り下ろす際、ストレートと同じスロットから投げる。リリースポイントでは、中指でボールの外側をわずかに「切る」感覚を持つ。この「切る」動作がカットボール(cutter = cut fastball)の名前の由来だ。手首を意図的にひねる必要はない。指の配置とリリース時の圧力だけで十分な変化が生まれる。
リリース時の意識としては、「ボールの右半分(右投げの場合)を中指で押し出す」というイメージが効果的だ。前腕の回内動作はストレートと同じか、わずかに少ない程度にとどめる。過度に手首をひねるとスライダー寄りの変化になり、球速が大幅に落ちてカットボールの長所が失われる。
フォロースルー
フォロースルーもストレートと同様に行う。腕を体の前でしっかり振り切ることで、一貫したリリースポイントを維持できる。フォロースルーが不十分だと、リリースが早くなって抜け球が増えたり、肩への負担が増加したりする。
NPB投手に学ぶカットボールの実例とデータ
NPBのトップ投手たちのカットボールを分析することで、理想的な球質のイメージを持つことができる。
山本由伸(ロサンゼルス・ドジャース / 元オリックス)
山本由伸のカットボールは、NPB時代から最も評価が高かった球種の一つだ。平均球速145km/h前後、横変化約10cm、縦変化(ドロップ量)約30cmという球質で、ストレートとの球速差はわずか5km/h程度。打者にとってストレートとの見分けが極めて困難な球だった。NPB在籍時の被打率は.180台と、リーグトップクラスの成績を残した。彼の握りの特徴は、中指を縫い目に深くかけ、ボールの外側を確実に「切れる」ポジションを作っている点だ。
千賀滉大(ニューヨーク・メッツ / 元福岡ソフトバンク)
千賀滉大は「お化けフォーク」で有名だが、カットボールも重要な球種の一つとして使っている。平均球速143km/h前後のカットボールは、フォークボールへの布石として左打者の外角に投げ込むことが多い。カットボールでカウントを整え、フォークで仕留めるという組み立ては、NPB時代から一貫したスタイルだ。
ダルビッシュ有(サンディエゴ・パドレス / 元日本ハム)
ダルビッシュ有は、MLBで最も多彩な球種を投げる投手の一人として知られている。彼のカットボールは平均球速約146km/h、横変化は約8cmで、ストレートとスライダーの間を縫うような軌道を描く。NPB時代は主にストレートとスライダーの組み合わせが中心だったが、MLB移籍後にカットボールを習得し、さらに投球の幅を広げた。これは、カットボールが投手の成長段階で後から追加できる球種であることを示す好例だ。
カットボールの変化量を調整するテクニック
カットボールの変化量は、いくつかの要素を調整することでコントロールできる。変化が大きすぎるとスライダーとの差別化が難しくなり、小さすぎるとストレートとの違いが出ない。理想的な変化量を見つけるためのテクニックを紹介する。
指のオフセット幅で変化量を調整する
人差し指と中指のオフセット幅を大きくすると変化量が増え、小さくすると変化量が減る。初心者はまず5mm程度の小さなオフセットから始め、慣れてきたら徐々に広げていくことを推奨する。オフセットを10mm以上にすると、球質がスライダーに近づいていくため、「カットボール」としての最適ポイントは5〜10mmの範囲だ。
指の圧力配分で変化の質を変える
中指の圧力をさらに強くすると、横方向の変化が鋭くなる。逆に人差し指寄りの圧力を増やすと、横の変化が穏やかになり、よりストレートに近い軌道になる。試合の状況や打者によって、この圧力配分を微調整できるようになるのが上級者への道だ。
リリースの角度で変化方向を調整する
腕のスロット(リリースの角度)によっても変化の方向が変わる。オーバースローの投手はやや縦方向の変化が加わり、スリークォーターの投手は純粋な横変化に近くなる。自分のスロットに合わせた変化の方向を理解し、それを活かした配球を組み立てることが重要だ。
カットボールの練習ドリル5選
カットボールを実戦で使えるレベルまで上達させるための、段階的な練習ドリルを紹介する。
ドリル1:椅子座り投げ(スピンドリル)
椅子に座った状態で、3〜5m先のネットまたはパートナーに向けてカットボールの握りで投げる。下半身の動きを排除することで、指先の感覚とリリースだけに集中できる。1セット20球、2〜3セット行う。ボールの回転を目で確認しながら、横方向の変化が出ているかチェックする。
ドリル2:ワンニー投げ(片膝投げ)
片膝をついた状態で、10〜12m先のパートナーに投げる。上半身の回転とリリースの連動を意識しながら、カットボールの握りでストレートと同じ腕の振りを維持する練習だ。ストレート10球、カットボール10球を交互に投げ、腕の振りの一貫性を確認する。パートナーやカメラでフォームの差異がないかチェックしてもらう。
ドリル3:ブルペン投げ込み(距離段階法)
12m → 14m → 16m → 18.44m(マウンドからホームまでの公式距離)と段階的に距離を伸ばしていく。各距離で15球ずつ投げ、変化の感覚を掴んでから次の距離に移る。いきなりフルディスタンスで投げると、力みから変化が不安定になりやすい。
ドリル4:ターゲット投げ分けドリル
ストライクゾーンを9分割し、特定のエリアにカットボールを投げ分ける練習。特に以下の4つのスポットを重点的に練習する。
- 右打者インコース低め(カットボールの基本配球ポイント)
- 右打者アウトコース低め(ストレートの軌道からわずかに逃げる)
- 左打者アウトコース(バットの芯から外れる方向に変化)
- 左打者インコース高め(詰まらせるための攻めの球)
各スポットに10球ずつ、合計40球を目安に行う。的中率50%以上を目標にし、達成できたら次のステップに進む。
ドリル5:ストレート・カット交互投げ
ストレートとカットボールを1球ずつ交互に投げるドリル。このドリルの目的は、球種を切り替えてもフォームが変わらないことを確認することだ。パートナーに球種を当ててもらい、見分けられるようであればフォームの修正が必要。見分けがつかなければ、実戦で打者を惑わせるカットボールが投げられている証拠だ。1セット30球(ストレート15球、カットボール15球)を2セット行う。
よくある失敗とその対処法
カットボールの習得過程で多くの投手が陥りがちな失敗パターンと、その解決策をまとめた。
| よくある失敗 | 原因 | 対処法 |
|---|---|---|
| 変化が大きすぎてスライダーになる | 指のオフセットが大きすぎる、または手首をひねっている | オフセットを5mm以内に抑え、手首は自然な状態を保つ。ストレートの腕の振りを意識する |
| 変化がほとんど出ない | 握りがフォーシームとほぼ同じ。中指の圧力が不足 | 中指を縫い目にしっかりかけ、リリース時に中指でボールを「切る」意識を強める |
| コントロールが定まらない | リリースポイントが不安定。力みすぎ | 距離を縮めた練習(12m)からやり直し、リリースの一貫性を取り戻す |
| 球速が大幅に落ちる(10km/h以上遅い) | 腕の振りを緩めている、または握りが強すぎる | ストレートと同じ意識で全力で腕を振る。握りは70%程度に調整 |
| 打者にバレる(球種を読まれる) | グラブ内での握り替えが遅い。投球フォームが変わっている | グラブの中で素早く握りを作る練習を繰り返す。動画で自分のフォームを比較確認 |
| 抜け球が多い(高めに浮く) | リリースが早い。指がボールに十分にかかっていない | リリースを「体の前」で行う意識を持つ。フォロースルーを長く取る |
| シュート方向に変化してしまう | リリース時に人差し指側に力が入っている | 中指主導のリリースを再確認。人差し指の圧力を減らす |
| 肘や前腕に痛みが出る | 不自然な手首のひねりや、過度な練習量 | 投球を中止し、フォームを見直す。手首をひねらず、指の配置だけで変化を出す方法に修正する |
カットボールとスライダーの違い:球種の使い分け
カットボールとスライダーは、しばしば混同される球種だ。スライダーの投げ方と比較すると、両者には明確な違いがある。この違いを理解することで、試合での使い分けがクリアになる。
| 項目 | カットボール | スライダー |
|---|---|---|
| 球速 | 140〜148km/h(ストレート-5〜8km/h) | 125〜138km/h(ストレート-15〜25km/h) |
| 横変化量 | 5〜15cm | 15〜35cm |
| 縦変化量 | 少ない(ストレートに近い) | 大きい(沈む方向) |
| 回転数 | 2200〜2600rpm | 2000〜2500rpm |
| 回転軸 | ストレートに近い(わずかにジャイロ方向) | 大きくジャイロ寄り |
| 握りのオフセット | 5〜10mm | 15mm以上 |
| 主な使用目的 | バットの芯を外す、凡打を狙う | 空振りを取る、カウント球 |
| 打者から見た印象 | ストレートに見える | 変化球として認識しやすい |
実践的な使い分けとしては、追い込む前のカウント(0-0、1-0、0-1など)ではカットボールでストライクを取りに行き、追い込んだ後にスライダーやフォークで仕留めるという組み立てが効果的だ。カットボールはストレートに見えるため、打者が手を出しやすく、ストライクを稼ぎやすい。一方、スライダーは変化量が大きいため、決め球として空振りを狙いやすい。
また、カットボールとツーシームの違いも把握しておこう。ツーシームはシュート方向(右投手なら右打者の内角方向)に変化するのに対し、カットボールはスライド方向(右投手なら右打者の外角方向)に変化する。この二つを投げ分けられれば、ストレートに近い球速帯で左右どちらの方向にも変化させることができ、打者にとって非常に厄介な投球スタイルが完成する。
試合でのカットボールの配球戦略
カットボールの投げ方を覚えたら、次は試合でどう使うかが問題だ。ここでは、実践的な配球パターンを打者の左右別に解説する。
対右打者の配球
右投手のカットボールは、右打者に対して内角方向に食い込む(打者の手元にくる)ように変化する。このため、以下のパターンが効果的だ。
- インコース低め:ストレートのつもりでスイングすると、バットの根元に当たって内野ゴロになる。最も基本的な配球
- アウトコースからストライクゾーンに入れる:打者の体から離れる方向にカットボールが変化し、打者は見逃すか、バットの先に当てて凡打
- ストレートとの緩急差なし配球:同じ球速帯のストレートとカットボールを交互に投げ分け、打者のタイミングではなくバットの芯を外すことを狙う
対左打者の配球
右投手のカットボールは、左打者に対してアウトコースに逃げるように変化する。
- アウトコース低め:打者にとって最も遠い位置に変化しながら逃げていく。空振りまたは見逃しストライクを狙える
- アウトコースからボールゾーンへ:ストライクゾーンから外れていく軌道で、追い込んだ後の決め球として使用
- インコース高め:バットの内側に食い込ませ、詰まらせてポップフライを打たせる
上級者向け:カットボールのバリエーション
基本的なカットボールを習得したら、以下のバリエーションを身につけることで投球の幅がさらに広がる。
ハードカッター(速いカットボール)
ストレートとの球速差を3km/h以内に抑えたカットボール。変化量は小さいが(5〜8cm程度)、球速が速いため打者の反応時間がさらに短くなる。NPBのトップ投手の中には、148km/h以上のハードカッターを投げる選手もいる。グリップのオフセットを最小限(3〜5mm)にし、ほぼストレートの感覚で投げるのがコツだ。
スローカッター(遅めのカットボール)
意図的にストレートとの球速差を10〜12km/h程度に広げたバリエーション。変化量は大きくなる(12〜18cm程度)が、スライダーよりは速い。ストレート、ハードカッター、スローカッター、スライダーという球速の段階を作ることで、打者のタイミングを多角的に崩すことができる。
フロントドア・カッター
打者のインコース(体の近く)からストライクゾーンに入ってくるように投げるカットボール。打者は「ぶつかる」と思って避けるか、のけぞるが、ボールはストライクゾーンに曲がってくる。高度な制球力が必要だが、決まった時の効果は絶大だ。特に左打者への右投手のカットボールで有効なテクニックで、NPBでもこの配球を意識的に使う投手が増えている。
バックドア・カッター
フロントドアの逆で、アウトコース側のボールゾーンからストライクゾーンに曲がってくるカットボール。打者は「ボールだ」と思って見逃すが、変化してストライクゾーンに入ってくる。0-0や1-1のような打者が選んでくるカウントで効果的だ。
カットボール習得のタイムラインと目標設定
カットボールの習得には個人差があるが、一般的なタイムラインの目安を以下に示す。焦らず段階的に進めることが、最終的な球質の向上につながる。
第1週〜第2週:握りとスピンの感覚を掴む
椅子座り投げとワンニー投げを中心に、カットボールの握りと指先の感覚に慣れる。この段階では変化量や精度は気にせず、「中指でボールを切る」感覚を体に覚えさせることに集中する。毎日の練習時間は20〜30分程度で十分だ。
第3週〜第4週:距離を伸ばし変化を安定させる
ブルペン投げ込みで徐々に距離を伸ばし、18.44mからの投球で安定した変化を出せるようにする。この段階で、自分にとって最適な指のオフセット幅と圧力配分を見つける。10球中7球以上が一定の変化を示すようになれば、次のステップへ進む。
第5週〜第8週:コマンドの精度を上げる
ターゲット投げ分けドリルを重点的に行い、ストライクゾーン内の狙った場所にカットボールを投げられるようにする。この段階で、ストレートとの交互投げも取り入れ、フォームの一貫性を高める。
第9週〜第12週:実戦投入と微調整
打撃練習の登板や紅白戦で実際に打者に対してカットボールを投げる。打者の反応を見ながら、変化量や投げるコースを微調整する。最初は1イニングに2〜3球程度から始め、慣れてきたら配球の30〜40%をカットボールにしていく。
カットボール習得時の肩・肘のケア
カットボールは、正しいフォームで投げれば肩や肘への負担がストレートとほぼ同等とされている。しかし、間違った投げ方をすると故障のリスクが高まるため、以下のケアを習慣にしよう。
投球前のウォームアップルーティン
- 肩甲骨周りのストレッチ(各方向15秒 × 3セット)
- レジスタンスバンドでのインターナルローテーション・エクスターナルローテーション(各15回 × 2セット)
- 軽いキャッチボール(10m × 20球 → 20m × 20球 → 30m × 10球)
- フォーシームストレートでの投げ込み(18.44m × 15球)
- カットボールの握りでの軽い投げ込み(12m × 10球)
投球後のクールダウン
- 軽いロングトスまたはキャッチボール(20m × 15球、徐々に距離を縮める)
- 肩と肘のアイシング(15〜20分)
- 前腕のストレッチ(手首の屈曲・伸展、各15秒 × 3セット)
- 肩甲骨周りのフォームローラーリリース(2〜3分)
投球量の管理
カットボールの練習球数は、1日の総投球数の30〜40%を上限とする。例えば、1日100球投げる場合、カットボールは30〜40球までとし、残りはストレートやその他の球種に配分する。特に習得初期は、1回の練習で50球を超えるカットボールを投げないようにする。手首や前腕に違和感を感じたら、即座に練習を中止することが重要だ。トミー・ジョン損傷は取り返しのつかない怪我であり、違和感の段階で対処することが予防の最善策だ。
よくある質問(FAQ)
Q:カットボールは何歳から投げ始めるべきですか?
A:一般的に、フォーシームストレートのフォームが安定してからカットボールの習得に移ることを推奨する。年齢の目安としては、中学2年生(14歳)以降が適切だ。小学生の段階ではストレートとチェンジアップの習得に専念し、変化球は体の成長を待ってから取り組むべきだ。カットボールは手首のひねりを必要としないため、スライダーやカーブよりも肘への負担は少ないとされるが、成長期の骨端線(成長板)への影響を考慮する必要がある。
Q:軟式球でもカットボールは投げられますか?
A:投げられる。ただし、軟式球は硬式球と比べて縫い目が低く、指のかかりが浅いため、変化量はやや小さくなる傾向がある。軟式球でカットボールを投げる場合は、指のオフセットをやや大きめ(8〜12mm)にし、中指の圧力をより意識的に強くするとよい。軟式野球においてもカットボールは有効な球種であり、特に草野球レベルでは打者のレベル差もあるため、ストレートに近い球速で変化するカットボールは大きな武器になる。
Q:カットボールとスライダーの両方を投げるべきですか?
A:理想的にはイエスだが、優先順位がある。まずはカットボールを安定して投げられるようになることが先決だ。カットボールの精度が上がった後で、スライダーを追加すると投球の幅が大きく広がる。ただし、カットボールとスライダーの「中間球」(どちらでもない中途半端な球)が増えるリスクもあるため、両方の球種の握りとリリースの違いを明確に区別できるようになることが重要だ。
Q:カットボールの回転数は多い方がいいですか?
A:単純に回転数が多ければ良いというわけではない。重要なのは「回転効率(spin efficiency)」と「回転軸の方向」だ。カットボールの場合、ストレートに近い回転軸を維持しつつ、わずかにジャイロ方向に傾いた回転が理想的。Rapsodoなどのトラッキングデバイスで自分のカットボールの回転特性を把握し、「ストレートとの回転軸の差」が15〜30度の範囲に収まるように調整するのが目安だ。
Q:左投手もカットボールを投げられますか?
A:もちろん投げられる。左投手のカットボールは、右打者に対してアウトコースに逃げる方向に変化し、左打者に対してはインコースに食い込む方向に変化する。右投手とは変化の方向が逆になるだけで、握り方やメカニクスの原則は同じだ。NPBでもMLBでも、左投手でカットボールを武器にしている選手は多数いる。
Q:練習で変化するのに試合で変化しないのはなぜですか?
A:試合での緊張や力みが原因であることが多い。リラックスした状態で投げる練習と、打者を意識して力む試合では、握りの強さやリリースの感覚が変わってしまう。対策としては、練習時から「打者がいる」ことをイメージして投げる(シャドーピッチングに打者をイメージする)、紅白戦や打撃練習登板の機会を増やすなど、実戦に近い環境での練習を増やすことが有効だ。
Q:カットボールの握りが試合中にずれてしまいます。対処法は?
A:まず、ロジンバッグの使用を徹底する。手汗で指の位置がずれるのを防ぐことができる。次に、グラブの中でカットボールの握りを作る際のルーティンを確立する。毎回同じ手順で握りを作ることで、無意識に正しい位置に指が配置されるようになる。セットポジションで構えた際に、グラブの中で軽く握り直す癖をつけるのも効果的だ。
まとめ:カットボールを武器にするために
カットボールは、ストレートに近い球速で打者の手元で変化するため、NPBでもMLBでも最も効果的な球種の一つとして位置づけられている。その習得は、握り方さえ正しく理解すれば、他の変化球と比べて比較的容易だ。
この記事で紹介した内容を振り返ると:
- 握り方:フォーシームから5〜10mmオフセットし、中指主導でリリースする
- メカニクス:ストレートと同じ腕の振りを維持し、手首をひねらない
- 練習:椅子座り投げから始め、段階的に距離と複雑さを上げていく
- 配球:右打者のインコース、左打者のアウトコースが基本の配球ポイント
- ケア:投球量を管理し、ウォームアップとクールダウンを習慣にする
最も重要なのは、焦らず段階的に習得を進めることだ。最初の2週間は握りの感覚だけに集中し、3ヶ月かけて実戦で使えるレベルまで持っていく。山本由伸やダルビッシュ有のような世界クラスの投手たちも、試行錯誤を繰り返してカットボールを自分のものにしてきた。あなたも今日から、この記事のステップに沿って練習を始めてみてほしい。